はじめに
僕には、「鈴木竜也」という名前がある。
戸籍登録にもある、れっきとした本名だ。でも僕には他にもいくつかの“名前”がある。
デスノートが流行っていた小学校のある時期、色白・猫背・クマの3拍子が揃っていた僕は、友だちに「L」というアダ名で呼ばれていた。ポケモンの主人公の僕は「うんこ」だったし、大学時代は先輩に「ドラゴン」と付けられ、バーで働いていると「マスター」と言われ、映画祭に行くと「監督」と呼びかけられたり…
そんな感じで、人にはそれぞれ別の名前があると思う。
ニックネームや役職、続柄で呼称される人もいれば、芸能人には芸名、アーティストにはアーティスト名、水商売や風俗店で働く人々には源氏名があって、作家はペンネーム、ハガキ職人にはラジオネーム、SNSには匿名のアカウントが無数に存在するし、アパートの隣人や刑務所の囚人には番号があって、人種そのものを一括りにした蔑称だってあるし、未成年の殺人者は「少年A」という仮称が付けられ、その人物はいずれ「元少年」と、週刊誌に書かれる。